労働相談18:「解雇」の種類について
Q 業務成績が悪く,指導しても改善されない従業員がいます。また,無断遅刻も多く,注意しても直らないため,辞めてもらいたいと思います。解雇したいと思うのですが,ひとくちに解雇といっても色々な種類があるようなので,教えて下さい。
A 使用者と労働者の間の労働契約について,使用者の一方的な意思表示により終了させることを,「解雇」といいます。
解雇の種類について分かりやすく分類しますと,(1)普通解雇,(2)懲戒解雇,(3)整理解雇の3種類があります。
この中で,(1)普通解雇と(2)懲戒解雇は,労働者に責任があること(帰責性)を理由とした解雇です。そして(3)整理解雇は,経営上の必要性に基づいて解雇するものであり,労働者の帰責性は要求されていません。
(1)普通解雇について
労働者は,労働契約で定められた労働内容を使用者に提供する義務があります。しかし,労働者の帰責性により,労働契約で合意した内容の勤務を提供できない場合の解雇が,普通解雇です。
典型例としては,私傷病で働けない場合,勤務態度不良や能力不足などです。
しかし,普通解雇事由があったとしても,使用者は常に普通解雇できるというものではありません。
普通解雇は,客観的に合理的な理由と社会通念上相当な場合のみ許されると裁判所では判断しています(労働契約法16条に基づく「解雇権濫用法理」)。
つまり,例えば多少の能力不足があったとしても,教育や指導を尽くさずに解雇した場合,後から解雇の効力を争われた場合には無効と判断される可能性が高いということになります。
(2)懲戒解雇も,労働者に帰責性がある場合の解雇であるという点では普通解雇と同じですが,懲戒処分としての解雇であるという点が特徴です。
そのため,懲戒解雇が有効となるためには,①労働者に就業規則に定める懲戒解雇事由に該当する行為が存在すること,②弁明の付与等の必要な手続が行われていること,③客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であること(労働契約法15条)という要件が必要となります。
つまり,例えば懲戒事由に該当する行為があったとしても,戒告や減給など,就業規則に定められている,他の軽い懲戒処分で足りるのであれば,③の要件が欠けるということになると思われます。
(3)整理解雇は,会社の経営が傾いており,人員整理の必要がある場合に行われる解雇です。
これも,整理解雇が有効となるためには,①人員整理の必要性があることに加え,②新規採用を抑えるなど他の手段で解雇を回避する努力を行ったか,③整理解雇対象者の選択が合理的か,④整理解雇の手続が妥当かという要件が必要となります。
ご質問のケースですと,3種類の中では普通解雇に該当しうる事案かと思います。
しかし,普通解雇事由があったとしても,仮に労働者から普通解雇を争われた場合,有効と認められるためには高いハードルがあります。
そのため,実務上は,従業員に対して退職を促して合意により退職する(退職勧奨)という方法が多く行われています。
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