労働相談8:使い込みへの対応

Q 帳簿をチェックしていたところ,不透明な金銭の支出などがあります。経理部の従業員が,会社の金銭を使い込んでいるのではないかと思うのですが,今後どのように対処すればよいか教えて下さい。

A まずは調査を行い,客観的事実を確かめる必要があります。このとき,証拠隠滅を防止するために,調査中は当該従業員に対して自宅待機措置をとることも考える必要があります。

 自宅待機命令は業務命令として行うものなので就業規則上の根拠は不要と考えられていますが,もし御社に自宅待機命令の規定がないようでしたら,トラブル防止のためには規定しておいた方が良いでしょう。自宅待機命令は業務命令として行うものでなので,自宅待機期間中の賃金は原則として支払う必要があることにも注意が必要です。

 調査の結果,使い込みが事実であった場合,会社への損害が生じており,会社に対する背信性も高い行為であるといえます。そのため,金額の多寡にかかわらず,何らかの懲戒処分が相当であるといえます。

 懲戒処分を行うためには就業規則の定めが必要です。通常は「故意又は重大な過失により,会社に重大な損害を与えたとき」,「経費の不正処理をしたとき」,「会社内において窃盗,横領などの犯罪行為を行ったとき」などという規定があるので,このような規定があれば懲戒処分自体は可能ということになります。

 懲戒処分の内容については,①金額の多寡,②使い込みの回数,③証拠隠滅行為の有無とその態様,④会社の落ち度,⑤使い込んだ金銭の返還の有無などを総合的に考慮して決めることになります。

 『いくらの使い込みであれば懲戒解雇しても無効にならないか』という点が,会社としては最も気になる点かと思います。懲戒処分の内容が相当であるかについては,既に述べました通り,上記①~⑤を総合的に考慮して決めるものですので,金額のみで有効性が決まるものではありません。

 会社の立場としては,背信性の高い従業員を在籍させておくことに抵抗を感じるでしょうから,少額であっても懲戒解雇で会社を辞めてもらおうと考えるかと思います。しかし,懲戒解雇が争われた場合に無効となる場合もあるので,上記①~⑤の考慮要素を総合的に検討し,慎重に冷静な判断を行う必要があります。

 使い込みをした従業員に対し,使い込んだ金銭の返還を請求することも可能です。

 もし,懲戒処分をする前に,使い込んだ金額全額が会社に返還されたとしても,使い込みという懲戒事由自体がなくなるものではありませんので,懲戒処分ができなくなるものではありません。

 ただ,使い込んだ金銭を返還することにより会社に生じた損害をなくした(もしくは減らした)という事実が従業員側の有利な事情となります。そのため,懲戒処分が争われた場合を考えて,一段階軽い懲戒処分にする,もしくは退職勧奨などで穏便に離職という方針にすることも合理的な選択肢であるといえます。

 使い込んだ金額が多額,社会的に広く知れ渡って世間の関心が高い等の事情があれば,懲戒処分だけではなく,刑事告訴(業務上横領罪)による厳正な対応も視野に入れる必要があります。

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