労働相談7:遅刻や欠勤が多い社員への対応
Q 遅刻や欠勤が多い従業員がいて困っているのですが,どのように対応すれば良いでしょうか。解雇することはできますか。解雇できる場合,注意点があれば教えて下さい。
A 労働者は,使用者との間の雇用契約により所定労働日について所定労働時間の労務提供をする義務があります。
つまり,労働者が所定の業務開始時間に遅刻したり,所定労働時間の労務に従事しない,または所定の労働日に全く就労しないのは,労働契約上の義務違反となり,使用者に対する債務不履行を構成することになります。
そのため,遅刻,欠勤の時間について賃金は発生しないことが原則となります。
就業規則には,「従業員が遅刻,欠勤をした場合には,普通解雇の対象となる」と規定されていることも多いと思います。また,遅刻・欠勤で業務に支障を来したり職場秩序を乱したりしたような場合には,就業規則に規定されていれば,懲戒処分の対象にもなり得えるといえます。
しかし,遅刻,欠勤と一言で言っても様々な理由があります。そして,遅刻,欠勤すること自体は通常であれば誰にでも生じる可能性が高いことです。
そのため,「会社が定める方法で連絡することで,遅刻・欠勤が労働契約上の義務違反とならない」と定めている会社も多いと思います。
ここで注意が必要なのは,遅刻,欠勤の連絡方法としては,原則として会社が定めた方法によらなくては,労働契約上の義務違反を正当化することにはならない,つまり無断欠勤や無断遅刻と同じ取り扱いとなるということです。
例えば,「遅刻,欠勤の場合は前日までに所属長に届け出る」との就業規則の定めがある場合には,当日朝に同僚に連絡するというのでは,所定の手続を行ったとはいえず,無断欠勤ないし遅刻と扱われてもやむを得ないということになります。
もっとも,緊急事態の場合はこの限りではないといえます。一般的には,就業規則に「交通事情、もしくは突然の病気や事故などによりやむを得ない理由がある場合は、電話等ですみやかに会社に連絡した上、出勤後に会社所定の手続きにより所属長に届け出る」と規定されていることが多いかと思いますが,規定がない場合は,定めておいた方が安全です。
どの程度であれば遅刻,欠勤を行ったことを理由として普通解雇が可能かについては,業務内容や遅刻,欠勤の程度によるため,明確な基準というものがあるものではありません。
就業規則に「勤務態度が不良で,注意したにもかかわらず改善されないとき」と規定されているような場合には,勤務態度不良という事実のみでは解雇することはできず,注意したにもかかわらず改善されなかったという事実が必要になるため,この事実を記録しておく必要があります。
もし,就業規則に「注意したにもかかわらず改善されないとき」との定めがなかったとしても,勤務態度不良を理由にいきなり解雇したとすると,後から解雇の効力を争われた場合に会社が負けてしまうおそれがあります。そのため,注意や指導を行ったにもかかわらず状況が改善されないという事実を積み重ねた上で,解雇する必要があるといえますので,やはり注意や指導を行ったにもかかわらず状況が改善されないという事実を記録しておく必要があります。
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