労働相談3:復職可能という主治医の診断書が提出されたら復職を認めないといけないでしょうか
Q 休職中の従業員が「復職可能である」旨の主治医の診断書を提出し,早く復職させて下さいと言ってきました。会社は復職の要求に応じないとならないでしょうか。
A 会社の就業規則等で復職についてどのような規定がされているかによりますが,従業員が「復職可能」の医師の診断書を提出したからといって会社は直ちに復職を認めなければならないとは規定されていないことが多いので,これを前提に回答します。
医師の診断書は,医療の専門家が作成した文章であるという点で信頼性が高い文書ではありますが,会社の事業や当該従業員が従事していた業務内容を熟知しているのは主治医ではなく会社です。また,主治医の作成する診断書は,患者本人の意向を反映した内容になりがちであるという現状もあります。
そのため,復職を認めるかどうかについては,最終的には会社が判断することになり,従業員が「復職可能」との診断書が提出されても,復職を認めなくてはならないものではありません。
もっとも,医師が作成した「復職可能」の診断書が提出された以上,復職の可否判断に当たってこれを完全に無視してしまっては,従業員が後から争った時に,合理的根拠なく復職を認めなかったとして会社が負けてしまう恐れがあります。
そのため,「復職可能」との診断書を作成した主治医がそのような判断に至った根拠を確認し,当該従業員が復職後に従事することとなる業務内容においても復職が本当に可能であるかどうかを,主治医と面談する方法で確認することが考えられます。
主治医と面談を行う際,当該従業員の同意なく勝手に会社が面談を行おうとしても,個人情報保護法上,医師が患者本人以外に患者の個人情報を伝えることはありません。
そのため,面談に先立って当該従業員からの同意書を取得した上で,主治医と面談する必要があります。
この点,就業規則に「会社が診断書を作成した医師と面談を求めた場合,従業員はこれに協力しなければならない」との規定がある会社も多いかと思います。就業規則の規定があれば個別の従業員の同意は不要であることが原則ではあるのですが,この場合であっても医療情報という高度なプライバシー情報取得に関することであるため,従業員から同意書を取得することが好ましいと思います。
また,「会社は,復職の判断に当たり必要と判断したときは,会社が指定する医師の受診を従業員に対して命じることができる」旨の定めを就業規則に置いている会社もあるかと思います。会社の指定する医師というのは,産業医になることが多いかと思いますが,このような場合,産業医の面談結果も復職の可否を判断するに当たって利用することができます。
会社としては,従業員から提出された診断書,主治医との面談結果などを総合的に考慮して,当該従業員が復職後に従事することとなる業務内容に復職が可能かを判断することになります。
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