女性労働者の雇用
少子高齢化社会の中で企業のみならず社会全体の力を維持する必要性があることに加え、多様化社会の中で性別によらず社会で能力を発揮することが重要であるという観点から、近年は女性の社会における活躍が重要な取組となっています。
女性を雇用するに当たっては、その特性、特に妊娠出産をすることができるのが女性のみであることから、その身体と母性保護を保護し、かつ労働における実質的機会平等を達成する必要があるため、法による様々な規定がなされています。
まず、産前産後の保護としては、産前産後休業があります。産前休業は6週間(単胎の場合)以内で、労働者の請求があった場合に発生しますが、産後休業の8週間は、労働者の請求を問わず発生するもので、原則としてこの期間の就業は禁止される点に注意が必要です(産後6週間を経過して労働者が就業を請求した場合で、医師が差し支えないと判断した業務については就業が可能です)。
使用者としては、産前産後休業に入る女性がいる場合、その間の業務をどのように対応するのかを考える必要があります。派遣社員などで一時的に対応する、新たに正規雇用で従業員を雇う、現時点で雇用している従業員で対応するという3つの方法が考えられると思います。いずれの方法を取ったとしても、労働契約の締結や、給与面などの待遇をどのようにするかなどにつき、人事労務面での検討や管理が必要になります。
また、これは女性労働者には限りませんが、1歳未満の子を養育する労働者は、子が1歳に達するまでの期間は育児休業を請求することができます。
近年の待機児童問題を受け、平成29年10月1日から、保育所に入所できない等の場合には育児休業期間を最長2歳まで延長することができる改正法が施行されているので、注意が必要です。
育児休業中の賃金については、法で特別の定めはなく、労働契約の定めに従うことになっています。ノーワーク・ノーペイの原則から、育児期間中については無給と定められていることが多いようです(ただし、雇用保険から育児休業給付金が支払われます)。
また、3歳までの子を養育する労働者が希望した場合、使用者は1日の所定労働時間を短縮する措置(時短勤務)を講じる必要があります。
時短勤務により短縮した労働時間分についても、ノーワーク・ノーペイの原則から無休と定めることが多いようです。
育児休業期間や所定労働時間の短縮については、法で定められているのは最低ラインであるため、法の定めより長い期間や時間を取得することができる旨を就業規則などで定めることは可能です。時短勤務可能期間について、小学校入学前までなどと定める例も良く見られます。
育児休業や時短勤務を理由とした不利益取扱については、法で禁止されています。
ここで、「不利益」とは何であるのかについては法は規定していないため、解釈に委ねられています。
判例(最高裁平成15年12月4日)では、①賞与支払の条件として出勤率を定め、出勤率算定の基礎となる出勤日に産前産後休業と時短分を含めている就業規則の規定については、産前産後休業等を保障した労基法の趣旨に反するものであるとして無効であると判断しています。一方で、②賞与金額算定の際に、欠勤日数に産前産後休業の日数を含めることは不利益取扱でないと判断されています。
この判例では、「不利益」の内容について具体的な基準を立てたものではありませんが、休業に対するノーワーク・ノーペイの原則を超えるような不利益は、合理的な事情がない限り違法となるものと思われますので、注意が必要です。
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